はじめに|睡眠は夜だけの問題だと思っていた
眠れない日が続いていた頃、私は不眠相談員の方から、生活のリズムを整えることを教えてもらいました。
睡眠の問題というと、私はずっと、夜の過ごし方を変えるものだと思っていました。
夜になってから、どうすれば眠れるのか。
何をすれば、眠れる状態になるのか。
けれど、実際に大切だと言われたのは、夜だけではなく、一日の流れでした。
朝は同じくらいの時間に起きる。
朝から日中にかけては活動する。
夕方以降は、少しずつ休息の方向へ切り替えていく。
夜になってから眠れる状態をつくろうとするのではなく、朝から夜までの流れに、活動と休息のメリハリをつけるということでした。
ここでは、眠れない日が続いていた頃の私が、朝から夜までどのように過ごしていたのかを書いてみます。
1.眠れなかった朝も、一日を始める
ほとんど眠れなかった朝は、
「もう少し横になっていたい」
「今からなら少し眠れるかもしれない」
と思うこともありました。
それでも私は、朝になったら起きて、散歩に行っていました。
私の場合は、家の中で座ってじっとしているほうがつらく、歩いているほうが少し楽でした。
散歩は特別な準備もいらず、自分にとっていちばん負担の少ない活動だったのだと思います。
不眠相談員の方からは、夜の睡眠へ向かうためには、朝から一日を始め、日中の疲労を積み重ねていくことも必要だと言われていました。
ここでいう疲労は、眠るために無理やり体を疲れさせることではありません。
朝になったら起きる。
外へ出て歩く。
そこから一日を始める。
眠れなかった夜の続きを朝まで引きずるのではなく、眠れたかどうかにかかわらず、朝からまた一日の流れをつくっていくということだったのだと思います。
2.日中は、負担をかけすぎない範囲で活動する
仕事がある日は、仕事に行っていました。
仕事がない日は、散歩をしたり、買い物に出かけたりしていました。
眠れていない日は、もちろん体も頭もつらくなります。
そのため、無理にたくさん動こうとしていたわけではありません。
ただ、できる範囲で何かをしながら、一日を過ごしていました。
ずっと座ったままにしない。
一日中、横になったままにしない。
私の場合は、休み続けることが必ずしも楽ではありませんでした。
何もせずにいると、昨夜どのくらい眠れたのか、今夜は眠れるのかということに、意識が戻りやすかったからです。
それなら、少し歩く。
買い物に行く。
その日に必要なことをする。
日中の活動は、運動量を増やすことだけではなく、朝から夜までの時間を、一つずつ進めていくようなものでもありました。
3.日中のポイントは「疲労とやる気」だった
不眠相談員の方から、日中の過ごし方で大切なのは、
「疲労とやる気」
だと言われていました。
疲労は、日中に体を動かし、活動すること。
もう一つの「やる気」は、何かに興味を持ったり、集中したりすることでした。
ただ、眠れない日が続いていた当時の私には、何かに集中したり、やりたいことを見つけたりする余裕がほとんどありませんでした。
眠れていない。
頭が働かない。
何かをしたいとも思えない。
睡眠のことで頭がいっぱいなのに、
「好きなことを見つけよう」
と思っても、そこまで気持ちが動かないのです。
そのため当時は、散歩や仕事、買い物など、今できることをしながら一日を過ごしていました。
今振り返ると、ここでいう「やる気」は、元気を出すことでも、前向きになることでもなかったように思います。
睡眠以外の何かに、意識が向いている状態。
その時間だけでも、
「昨夜は何時間眠れたか」
「今夜は眠れるだろうか」
という考えから離れていること。
相談員の方が言っていたのは、そういう時間のことだったのかもしれません。
4.好きなことに没頭できる日もあった
眠れていなくても、意外と体が動く日がありました。
そういう日は、好きな料理を作ることもありました。
頭があまり疲れていないときは、好きな音楽を聴いていました。
料理や音楽に没頭できると、その間は睡眠のことを考えていませんでした。
一日中、
「昨夜は眠れなかった」
「今夜はどうなるのだろう」
と、同じ場所へ戻っていた意識が、別のものへ向いていく。
没頭できる時間が少し長くなった日や、一日の終わりに、
「今日は好きなことができたな」
と思えた日は、比較的眠れることもありました。
もちろん、料理をしたから眠れた、音楽を聴いたから眠れた、と単純に結びつけられるものではありません。
それをすれば眠れると思った瞬間に、好きなことまで睡眠のための方法に変わってしまいます。
今日は、この料理を作りたかった。
この音楽を聴きたかった。
そこには、眠れるかどうかとは別の時間がありました。
眠れなかった一日ではなく、自分の好きなことをした一日でもあった。
今振り返ると、その時間が少しずつ戻ってきたことも、私にとっては大きかったように思います。
5.眠れていないときの自分を、そこで判断しない
眠れない日が続いていた頃は、自分に対して否定的なことがよく浮かびました。
何もできていない。
以前のように動けない。
このままずっと戻れないのではないか。
体がつらいだけではなく、考えることまで、少しずつ暗い方向へ寄っていきました。
「早く元に戻らなきゃ」
「こんな自分ではだめだ」
その頃は、浮かんだことをそのまま、自分についての事実のように受け取っていました。
認知行動療法のように、考え方を変える必要があると言われても、疲れ切った頭で自分の考えを見直すのは、私には簡単ではありませんでした。
今、当時の自分に何か言えるとしたら、
「こんなに眠れていない中で、よく一日を過ごしているね」
と伝えると思います。
前向きに考え直そうとする前に、今の頭も体も、それだけ疲れているのだと見る。
当時の私は、眠れていない頭で自分を採点し、その結果を、自分についての結論にしていました。
でも、採点している頭そのものが、かなり疲れていたのです。
あのとき浮かんでいた自分への評価を、そこで自分の結論にしなくてもよかったのかもしれません。
6.夕方以降は、活動から休息へ切り替える
朝から日中にかけて活動したあとは、夕方以降、少しずつ休息の方向へ切り替えていました。
昼間と同じ勢いで動き続けるのではなく、一日の速度を少しずつ落としていくような感じです。
日中は外へ向いていた意識を、夕方から少しずつ内側へ戻していく。
活動する時間から、体を休める時間へ移っていく。
その境目をつくることも、一日の流れの一部でした。
ただ当時の私は、夜にすることの一つひとつを、眠れるかどうかと結びつけていました。
朝から活動した。
散歩もした。
昼寝もしなかった。
夜は体を休めた。
これだけやったのだから、今日は眠れるはず。
そう思って布団に入り、それでも眠れないと、
「何が足りなかったのだろう」
と、また答えを探し始めました。
休息へ向かうためにしていたことが、いつの間にか、その日の睡眠を成功させるための確認作業になっていたのです。
7.整えていたのは、今夜の睡眠ではなく一日の流れだった
当時の私は、生活を整えれば、その日の夜に眠れると思っていました。
朝から活動した。
散歩もした。
食事にも気をつけた。
夕方からは体を休めた。
だから、今日は眠れるはず。
一日の行動が夜の睡眠につながっているかを、毎晩確かめていました。
眠れなければ、今日の過ごし方のどこかに間違いがあったように感じました。
けれど今振り返ると、生活を整えることは、その夜に眠れるかどうかを決めるためだけのものではなかったのだと思います。
朝になったら、一日を始める。
日中は、負担をかけすぎない範囲で活動する。
できる日には、好きなことに意識が向く時間を持つ。
夕方からは、少しずつ活動を下ろしていく。
そうして、朝から昼、夕方、夜へと向かう流れをつくっていた。
眠るための方法を一日の中に詰め込んでいたというより、眠れないことで途切れていた一日の流れを、少しずつ取り戻していた。
今の私には、そのように見えています。
そして、眠れなかった日は、一日のすべてがうまくいかなかったように感じていましたが、その日にも歩いた時間があり、仕事をした時間があり、料理や音楽に意識が向いた時間がありました。
夜の睡眠だけで一日を採点していると、そうした時間は見えなくなります。
私が少しずつ取り戻していたのは、睡眠だけではない、自分の一日だったのかもしれません。
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