「また眠れなかったらどうしよう」
以前の私は、この不安そのものを何とかしようとしていました。
考えないようにする。
眠れる方法を探す。
不安が消えたかを確認する。
けれど今振り返ると、不安は最初からそこにあったわけではありません。
不安になる前に、まだ起きていない未来を予測し、そこに自分なりの意味をつけていました。
そして不安になったあとには、それを消そうとする別の流れが始まっていました。
まずは、私の中で起きていたことを図にすると、こうなります。

これは、眠れない夜だけに起きていたことではありません。
眠る前から、もっと言えば「明日は仕事だ」と思ったところから、すでに流れは始まっていたのだと思います。
1.不安は、突然始まっていたわけではなかった
夜になると、理由もなく不安になっているように感じていました。
昼間はそれほど気にしていなかったのに、寝る時間が近づくと、
「今夜は眠れるかな」
「また眠れなかったらどうしよう」
という言葉が浮かんでくる。
そのため私は、「不安になりやすい性格だから」「また考えすぎているから」と、自分の性格の問題として捉えていました。
けれど、よく見てみると、その前に小さなきっかけがありました。
「明日は仕事」
「朝早く起きる」
「予定が入っている」
「体調を崩せない」
その事実に触れた瞬間、頭の中では、まだ起きていない明日のことが動き始めていました。
不安から始まっていたのではなく、その少し手前に、予測と判断があった。
その部分はあまりにも速く通り過ぎるため、当時の私には見えていませんでした。
2.まだ起きていない未来を予測していた
「明日は仕事」というのは、その時点ではただの予定です。
けれど私の頭の中では、そこからすぐに、
「今夜も眠れないかもしれない」
という予測が始まっていました。
以前にも眠れなかった。
仕事の前日に眠れなかったことがある。
この前も、なかなか寝つけなかった。
そうした過去の記憶をもとに、脳が先回りして、次に起きることを予測していたのだと思います。
予測すること自体は、何かがおかしいわけではありません。
脳には、過去の経験を使って、これから起きそうなことに備える働きがあります。
ただ、不眠が続いていた私の場合は、「夜」や「明日の予定」が近づくだけで、過去の眠れなかった経験が呼び出されやすくなっていました。
まだ今夜が始まっていないのに、
「また同じことになるかもしれない」
と、すでに未来を見に行っていた。
この時点では、まだ眠れないと決まったわけではありません。
でも、頭の中では、眠れなかった場合の準備が始まっていました。
3.予測した未来に、自分なりの意味をつけていた
「眠れないかもしれない」という予測だけで、不安が生まれていたわけではありません。
その予測のあとに、私なりの意味がついていました。
眠れなければ、明日つらくなる。
集中力が落ちる。
仕事のパフォーマンスが下がる。
いつものように家のことができなくなる。
周りに迷惑をかけるかもしれない。
いつもの自分でいられなくなる。
私が嫌がっていたのは、「眠れない」という出来事だけではなかったのだと思います。
眠れなかったあとに起きると考えていたこと。
その状態になったら困る、という自分なりの判断。
そこまでがひとつにつながって、「眠れないことは避けなければならない」という意味になっていました。
「眠れないかもしれない」
↓
「眠れなければ、明日いつものようにできない」
↓
「それは困る」
↓
「何としても眠らなければ」
この流れは一瞬で起きます。
だから、自分で意味をつけている感覚はありませんでした。
ただ、夜になったら急に不安が出てきたように感じていました。
4.予測と意味づけのあとに、不安が生まれていた
予測した未来が、自分にとって困るものだと判断されたあとに、不安が生まれていました。
「また眠れないかもしれない」
そこに、
「眠れなければ明日がつらい」
「役割をこなせない」
「いつもの自分でいられない」
という意味が加わる。
すると、その未来を避けたくなる。
この「そうなってほしくない」という感覚が、私の不安だったのかもしれません。
不安は、何もないところから突然現れたものではなかった。
まだ起きていない未来を予測し、その未来を自分にとって危険なもの、困るものとして見たあとに生まれていた。
そう考えると、不安があることより、その手前で何を予測し、どんな意味をつけていたのかが、少し見えるようになりました。
これは、「考え方を変えれば不安にならない」という話ではありません。
眠れなかった翌日のつらさを、私は実際に何度も経験しています。
集中できないことも、体が重いことも、何もする気になれないこともありました。
だから、眠れない未来を嫌がることにも理由がありました。
ただ、事実として起きていることと、頭の中で先に始まっている未来とが、いつの間にかひとつになっていた。
そこは、少し分けて見てもよかったのかもしれません。
5.不安を消そうとして、睡眠を見張るようになった
不安が生まれると、私はすぐに何とかしようとしていました。
「この不安を消さなければ」
「早く眠れる状態に戻さなければ」
「今夜こそ、きちんと眠らなければ」
不安は、そのままにしておいてはいけないものだと思っていました。
だから、不安にならない方法や眠れる方法を探しました。
呼吸を整える。
体を緩める。
眠れる音を探す。
考えないようにする。
睡眠について調べる。
どれも、眠るためにしていたことです。
けれど、不安が消えたかどうかを知るには、自分の状態を確認しなければなりません。
まだ不安なのか。
眠気は来たのか。
頭は冴えていないか。
体は緩んできたか。
あと何時間眠れるのか。
眠ろうとするたびに、私は睡眠を確認していました。
不安を消そうとしていたはずなのに、実際には何度も不安を見に行っていた。
眠ろうとしていたはずなのに、眠れそうかどうかを見張り続けていた。
「まだ眠れていない」
その確認が入るたびに、睡眠がもう一度、意識の中心に戻ってきました。
6.眠ろうとするほど、思考のループが強くなった
眠らなければならない。
でも、まだ眠れていない。
このままでは明日がつらい。
早く何とかしなければ。
そう考えるほど、頭は眠りから離れていきました。
眠るために考えているのに、その思考によって、さらに頭が働き始める。
そして、頭が冴えてきたことに気づくと、
「やっぱり今夜も眠れないかもしれない」
という最初の予測に戻る。
私の中では、この流れが何度も繰り返されていました。
不安を消そうとする
↓
不安がまだあるか確認する
↓
睡眠へ注意が集まる
↓
眠気や時間を監視する
↓
頭が冴える
↓
「また眠れないかもしれない」という予測に戻る
不眠の認知モデルでも、眠れないことや翌日への影響を心配すると、睡眠に関する情報へ注意が向きやすくなると考えられています。
「まだ眠れていない」
「もうこんな時間だ」
「頭が冴えている」
こうしたことばかりが目に入ると、その確認によって不安が増し、さらに頭が働き始める。
これは、Harveyによる不眠の認知モデルで示されている流れとも重なります。
考えないようにすることも、私には同じでした。
「今、睡眠のことを考えていないか」
そう確かめるには、結局もう一度、睡眠のことを見に行かなければなりません。
不安を消そうとすることも、眠ろうと努力することも、私の意識を睡眠へ戻す動きになっていました。
当時の私は、眠れないから努力していると思っていました。
でも、その努力の中で何度も睡眠を確認し、そのたびに、
「まだ眠れていない」
という情報を、自分に渡し続けていたのかもしれません。
「どうすれば、この不安を消せるんだろう」
そう考えている間も、私の意識はずっと、不安と睡眠のところにありました。
7.変わったのは、不安を消せたからではなかった
以前の私は、不安がなくなれば眠れると思っていました。
だから、
「どうすれば不安を消せるのか」
「どうすれば睡眠のことを考えなくなるのか」
と、何度も考えていました。
けれど、その答えを探している間も、意識は不安と睡眠に向いたままでした。
不安はなくなったか。
眠れそうか。
昨日より調子はいいか。
何とかしようとするたびに、もう一度、睡眠の状態を確かめていたのだと思います。
私の中で起きた変化は、不安をうまく消せるようになったことではありませんでした。
睡眠とは関係のないことへ意識が向く時間が、日常の中に少しずつ増えていった。
不安がなくなったというより、不安と睡眠だけに向かっていた意識に、ほかの行き先ができた。
ここから、私の睡眠との関わり方が少しずつ変わっていったのかもしれません。
8.一つの目標が強くなると、ほかのものが見えにくくなる
睡眠以外へ意識が向く時間が増えたことで、なぜ睡眠との関わり方まで変わっていったのか。
そこを考えたとき、私が腑に落ちたのが「目標遮蔽」という考え方でした。
参考文献
Shah, Friedman & Kruglanski(2002)の目標遮蔽の研究
目標遮蔽とは、一つの目標を強く意識すると、それと競合するほかの目標が、意識に上がりにくくなることです。
不眠がひどかった頃の私には、
「まず、眠れるようにならなければならない」
という目標がありました。
眠れなければ、明日がつらい。
集中できない。
いつものように動けない。
だから、何よりも先に睡眠を何とかしなければならない。
睡眠が戻ってから、ほかのことを考えよう。
そう思っていました。
けれど、「眠れるようになること」が最優先になるほど、それ以外の関心は後ろへ下がっていきます。
すると、意識に残るのは睡眠のことばかりになります。
眠れそうか。
不安はなくなったか。
今夜は大丈夫そうか。
睡眠を何とかしようとするほど、睡眠の状態を何度も確認する。
確認するたびに、睡眠は意識の中で、さらに大きなものになっていたのかもしれません。
このままでいいのかな。
早く元に戻らなきゃ。
一つしか見えていないと、その一つから目を離しにくくなる。
私の中では、そんな状態が続いていたのだと思います。
一方で、日常の中に睡眠とは関係のない関心が加わると、意識の向かう先は一つではなくなります。

これは、睡眠を無理に考えないようにすることではありません。
「好きなことをすれば眠れるはず」と考えると、今度は、
好きなことをしたから眠れそうか。
不安は減ったか。
と、その効果を確認したくなります。
それでは、やり方が変わっただけで、意識はまだ睡眠に向いたままです。
私に起きた変化は、睡眠から気をそらすために何かを始めた、ということではありませんでした。
睡眠に役立つかどうかとは別に、自分の関心が向く場所が日常の中に増えていった。
不安を消してから別のことへ向かったのではなく、不安があるままでも、意識の行き先が一つではなくなっていった。
その結果として、睡眠だけを確認し続ける状態が、少しずつ弱まっていったのだと思います。
私の場合、実際に何が新しい関心になり、睡眠を確認しない時間がどのように増えていったのか。
その変化については、こちらの記事にまとめています。
→ 睡眠のことばかり考えていた私が変わったきっかけ
9.不安の流れを、段階ごとに読む
「また眠れなかったらどうしよう」という不安の中では、いくつかのことが短い時間に重なっています。
全部を一度に何とかしようとすると、また「早く解決しなければ」という流れに入りやすくなります。
今、自分の中でどの部分が起きているのか。
それを分けて読むための記事を、流れの順番に並べました。
| 不安の段階 | そこで起きていること | 関連記事 |
|---|---|---|
| 予測 | まだ起きていない未来を先に見ている | また眠れない気がするときに起きていること|同じ夜になる気がする不安の正体 |
| 意味づけ | 眠れなかった場合に起きることを、自分にとって困る未来として見ている | 不安で眠れない夜に起きていたこと|「意味づけ」を知って見え方が変わった |
| 不安のあと | 不安を消そうとして、考えることや確認することが止まらなくなる | 眠れなかったらどうしよう」と思った夜に|気づいたら抜けられなくなる思考の流れ |
| 具体的な場面 | 仕事に備えようとして、夜も頭が働き続ける | 明日仕事だと思うと眠れない夜に|「眠らなければ」と焦る前に起きていたこと |
| 構造から外れた気づき | 不安を消すのではなく、睡眠以外へ意識が向く時間が増えていった | 睡眠のことばかり考えていた私が変わったきっかけ |
不安が生まれる前には、予測と意味づけがありました。
不安が生まれたあとには、それを消そうとして睡眠を見張る流れがありました。
そして私の場合、その流れから少しずつ外れていったのは、不安に勝てるようになったからではありませんでした。
不安を消そうとすることから、少し離れたところ。
睡眠とは関係のないものが、自分の一日の中に入ってきた。
「眠れるようになることしかない」と思っていたところに、ほかにも意識が向かう場所ができた。
今振り返ると、変化はそのあたりから始まっていたのかもしれません。
※この記事は「回復の地図 STEP 2(内側で起きていることを知る)」の一部です。
→ 回復の地図リンク

